2019年1月31日木曜日

ネット地図の境界線は不正確かもねという話

<この記事の概略>
ネット地図の境界線ってそこまでは正確ではないよ、
GoogleMapやMapionは境界を細かく語るには向いてないよ、という話。
※GoogleMapがゼンリン提供のデータを使用していた頃の記事です。


<本文>
たまにネット記事やSNS投稿で、GoogleMapやMapionの境界線(以下「行政界」と書く。都道府県や市町村や町丁目の境界)を根拠として、現地で撮った写真に線を入れたりするものがある。

しかし、それらの(おそらくゼンリン提供の)地図の境界線は、現地の敷地に線を引けるほどの精度は持ち合わせていない、というのが私の見解だ。少なくとも現地で撮った写真というような、測量しなきゃわからないような精度を求めるのは酷というものだし、それを確定事項として記事化してしまうのはまずいと思う。だがこれを私が言っても全然見向きもされないので、とりあえず理由をここに書こうと思う。

まず、行政界とは何だろうか。私なりの理解は以下のようなものだ(日本の場合ね)。

陸上には誰かのものとして登記された土地があり、そこには土地の境界、いわゆる筆界がある。これは地形と違って目には見えない、概念としての線である。土地の利用界よりもさらに細かく筆界が走っていることはザラである。

行政界はその1筆の土地の所在(どの都道府県のどの市区町村のどの町丁目・字に属する何番の土地か)を表すためのものだから、筆界を無視することはできない。もし筆界を無視した行政界があったら、その土地の所在がわからなくなってしまう。行政界は土地の境界(筆界)を兼ねているのだ。

従って、より精度よく行政界を表すためには少なくとも土地の境界(筆界)について調べなければならない。それを調べるためには、法務局か市町村の保管する公図系資料を見て、現況の土地に展開していくしかない(もちろん地積測量図があれば座標を展開してもいいが)。

ここで私が勝手に「公図系資料」と呼ぶのは、精度に関わらず公図っぽいもののこと(住宅地図はNG)。法務局に備えられている各種図面もそうだし、たとえば市町村にある公図はバラバラなのでそれを集めて編集した地図(←これの名前は自治体によって違う。地番図・公図集成図・編纂図・その他)とか。

日本の土地(特に都市部)は筆界を確定していない場所がたくさんあるが、(広義の)公図はそれを確定するのに一定の根拠を有する。少なくとも「そのような土地が存在する」「登記されている」という証拠となる。もちろん、それでも現地を測量していないのなら正確とは言えないし、登記されているのに行方不明の土地であるとか、法務局の公図と市町村の公図に差異があるとか、二重登記されている土地があるとか、公図の位置関係が間違っている(公図を作る際に昔の字限図を無理矢理くっつけた場合によく起きる)こともありはするのだが。

そして、これは想像だが、(各種ネット地図にデータを提供している)ゼンリンの地図は公図をいちいち調べているわけではなく、大きい建物・施設の所在(住所)について明確化する目的で描かれていることが多いように思う。実際、境界をまたぐ駅舎やスーパーなどの建物沿いでは境界線が回り込むように描かれていることがよくある(例→ 綺麗にサミットを回り込む区境 2019年1月31日→4月15日閲覧。もちろんこんな形の筆界であるわけがない)。

建物の建つ敷地内に二つ以上の違う所在……例えばA市とB市の筆(土地)があったとしても、建物の所在(住所)は便宜上どちらかの市とされる。しかし、だからといって土地の境界がどちらかに変わってしまうわけではない。地図として見た目でどちらの町に属すのかわかりやすくするために建物にかからないように回り込ませて描いている、のだと思う。ということはこの時点で、土地境界(筆界)とは関係がなくなってしまうので、そのまま信用するのは少し危険だ。

また、建物がないような場所ではそれはそれで不正確である場合がある。道路内の飛び地や微妙に道路外にはみ出す1筆などは表現していないことがよくあるし、入り組んだ場所もけっこう違っている。以下に例を示す。

※引用:大阪狭山市地番図閲覧ホームページ cE2.pdfより抜粋 2019年1月31日閲覧
http://www.city.osakasayama.osaka.jp/section/map/Sayama_Map/index.html
これは市の公図を集成した地番図である(道路敷が私道含めて灰色に塗られているのは特殊だ)。この部分を私の主観でGoogleMap上に展開し、GoogleMapの行政界(記事執筆当時はゼンリン提供のデータ)と比較する。

※引用:マイマップ(2019年1月31日閲覧。マッピングにマイマップを使用。データはリンク先からどうぞ)
https://drive.google.com/open?id=1OntXnls7fY02H0FyzpOb8NCyMJyGV9bQ&usp=sharing

境界がまっすぐではなさそうな場所を適当に選んだのだが、このように入り組んだ場所ではかなり両者が違う場合がある。少なくとも山本北621-1・1425-2・1472(道路内)はまるまる1筆分、公図(地番図)と違うほうの自治体に入ってしまっている。もちろんこの入力には主観が入るが、市内に存在しているという土地を素直に位置関係通りに当てはめればだいたいこのようになる。ここでは、少なくとも土地の利用界とは概ね一致しているように見えたが、そうではない場合ももちろんあるだろう。

こんなこと仕事でやってない限り誰もやらないだろうけど、一度やってみればこれらの資料の精度の限界が味わえると思う。

(追記)
ここで重要なのは「公図系資料をそのまま正しいものと受け取れ」という勘違いをしないこと。公図系資料と写真等をもとに、妥当な境界位置を考えたほうがネット地図の境界を鵜呑みにするよりマシという意味。いわゆる「地図に準ずる図面」である公図が現況にぴったり入るみたいな信用ができないのは当たり前(測量図でない限りは面積や形状は出鱈目、関係性はまあまあ当てになる)。要するに測量した資料がないなら「どれかが正しい」ってことはないので自分で考えないと、てこと。(追記終)

以上からもわかるように、国内のGoogleMap(ゼンリン由来)の境界線というのは「このくらいのもの」でしかないと私は思っている。GoogleMapやMapionって、そもそも境界を正確に描くことは目的としていないのだから、これらを使って境界を語っても「その地図の中では、な」という話で。

ネット地図はざっくりと町域がわかれば用途に足りるのであって、土地境界のようなデリケートな部分はカバーしていないし、カバーしようとも思っていないだろう。「地図に描いてある」とついつい正しいものと思ってしまうし、ネット地図は拡大できてしまうからそこまで精度が担保されてると勘違いしがちだが、あくまで地図は図形であって、極限まで精度を求めて作られているわけではないし、時には意図しない嘘やミスが入ることもある。

公図は公図で、自分で写真上に展開するのは素人だと難しいのだが、写真判読ができる人ならまあまあのところにはとりあえず引けるし、「こっちの自治体にこういう土地があります」という記載を漏らすことも少なくなる(飛び地1筆から数筆だけ単体で描かれた公図や、小字が細かくてやたらバラバラになってる公図だと1枚では位置が取れないがそれはしょうがない。諦めて!)。

かといって、大阪狭山市のように地番図を公開している自治体は稀で、しかもほとんどが西日本だ(少し古いが、以前私がざっと調べた→【資料】WEBで地番図が見られる自治体まとめ)。だから境界の詳細な話をしようと思ったらやっぱり法務局の公図か自治体の保管する公図(の集成図も可)が必要で、それを見に行くのはなかなか面倒なのも事実である(お金もらって記事や本書いてる人だったらそれくらい調べてほしいという気持ちはあるけど面倒ですよね本当に。)。

ということで私としては、GoogleMapやMapionだけを根拠に「境界はこうなっているんです」みたいな細かいこと書くのはちょっとどうなのかなー、と常々思っているけど、どうせ私が言ったところでだーれも相手してくれないし、こんなこと言ったって盛り上がってるところに水を差すつまんねー奴でしかないし(そもそも言うほど盛り上がってないが)、これ言っちゃうといろんなネット記事の根拠も揺らいでしまうからライターさん達にはご迷惑かな、というのは正直ある。地図って、それが正しいとすればネタの宝庫なのは私も知っている。正しいとすれば、ね。

あとついでに言うと、地下鉄道のラインなんかも観測できないものだから「この人が立っている下に線路がある」みたいな現地写真レベルでの信用性はない(特別に建設時の図面から描き起こしたとかでない限り)。筆界とか地下とかいうのは上から目視できる地形ではなく「概念の線」なのだ。すごく正確ではないけど、普通に使う分には困らない。実用品としての地図はそれでいいのだ。でもそれより深く踏み込んで使うのであれば、「地図ってどういうものだろう」ということを一度よく考えて、各種資料も照らし合わせたほうが、私は良いと思う。というくだらねぇ話。


<宣伝>
基本的に何でも屋ですので各種お仕事お待ちしております。
連絡先 http://shikasukeito.blogspot.com/2012/08/blog-post_4261.html
公図の展開くらいならチャチャっとやります(笑)。地番図の更新とか新規とか下請けします。

なんかこういう地図の勉強会とかやりたいね。まぁ、あっても呼ばれないから自分でやるしかないか……。

散策会もやってます。
http://shikasukeito.blogspot.com/2016/04/blog-post.html

2019年1月14日月曜日

今週の地図

こんにちは。
事務所のオモテに掲示している今週の地図をサラッとご紹介。


『日本交通分県地図 佐賀県』(大阪毎日新聞社・大正15年)。
スペースの都合上、タテになってますが。


ちょっと折れ癖が強いのが惜しい……。

以下はスキャンした画像。

佐賀というと近年はいろいろネタにされがちだけど、
大正時代の地図的には全然発展してる感じがする。
鉄道網も。このへんのは祐徳軌道(S06廃止)というそうな。
塩田-嬉野は肥前電気鉄道(S06廃止)。
軌道線も小さな漢字で電停名が書かれている。

唐津はかなり大きな街。さすが佐賀県第二の都市という感じだ。
当時からもう虹ノ松原駅があるのだなぁ。
北九州鉄道はまだできたばかりの頃。

佐賀市はこんな感じ(北側は折れでうまくスキャンできてません)。
こんな縮尺なのに佐賀城の堀をやたら書き込むあたりが時代感がある。
★は連隊区司令部の印。
今でいう旗の記号ともちょっと違うね、司令部の位置だから。
もっとも、佐賀連隊区は大正14年までで廃止されているとか。

などと地図を起点にいろいろ調べて回るのもおもしろいもの。
なにしろ私は九州へは行ったことがないのである……。
そのうち一周旅行とかしたいけどね!
四国一周は8日間かけたけど、九州だと10日は欲しい(笑)。

それでは今週もお仕事頑張りましょう。

あ、27日に散策会もあります、よろしく。





2019年1月6日日曜日

今週の地図

あけましておめでとうございます。
本年もCOOL MAPS並びに志歌寿ケイト、頑張っていきます。
皆様とともに良い一年にしていければ幸いです。

事務所ページ(COOL MAPS)作りました
引き続きGIS・散策系企画などお仕事募集中です。

恒例の初詣初日の出深夜歩き2019のレポートはこちら

/////////////////////////////

さて、本年最初の掲示地図紹介。

「岐阜県地図」駸々堂旅行案内部(大正7年)。
ちょっとちっさいね。良い地図なので引き伸ばしたい。

枯れ葉のような色合いがたまらない。
冬の地図って感じ。


このへんに父方の田舎があるのだが諸事情でこの正月は行けず。
まだ高山本線がない時代。菅田がすごく大きな集落に見える。
もちろんこの時代の地図の例によって、ものすごく細かく字名が描かれている。
長方形は町、大きい丸印は新制村の役場所在地だそうだ。
バツマルマルの境界線(美濃と飛騨の境)も今となっては独特。


岐阜市付近。200dpiのスキャンでは読めない(笑)。
赤系が鉄道線。
今はなき美濃町線がいち早く開通している(明治44年)。


大井というのは今の恵那のこと。
明知線……かと思ったけど岩村電気軌道でした(岐阜で最初の私鉄)。
小沢のところに温泉マークが。これが小沢遊園地かな。
このへんも今は阿木川ダムができてまったく様相が違う。



全体はこんな感じ。
左上が管内里程図、その下は普通は岐阜市の拡大図とかになるのだが、
なぜか「関ヶ原戦配陣図」。西軍・東軍・反應軍・内応軍が描かれている。
………いる?

斜面の描き方はあまり細かくない(斜線でササッと)。
文字もややブレがあるが、密度はすごい。
サイズはやや小さいが見応えはある。今の地図と見比べても楽しい。

ということで、また来週のこのコーナーもよろしく。